災害時、トイレを我慢しないために。北九州の「動くトイレ」が熊本へ

災害時、「トイレを我慢すること」が体調悪化につながる——。そんな避難所の見過ごせない課題に、北九州市が具体的な備えを進めています。

2026年3月に市が導入した災害用トイレカーは、8月の熊本地震で熊本県八代市へ派遣。さらに市内では、停電・断水時にも使える「マンホールトイレ」の整備が11カ所まで進んでいます。

北九州市の「トイレカー」が、実際に熊本の被災地へ

北九州市が2026年3月に導入した「災害用トイレカー」。

6月に曽根東小学校の行事でお披露目されたこの車両が、8月には熊本地震の被災地となった熊本県八代市へ派遣されました。導入から約5カ月。北九州で準備された災害時のトイレ対策が、実際の被災地支援に活用されたことになります。そもそも、なぜ災害時に「トイレ」がそれほど重要なのでしょうか。大規模災害では断水などによって、普段使っている水洗トイレが利用できなくなることがあります。トイレに行く回数を減らそうと水分を控えれば、脱水症状につながる可能性があります。排泄そのものを我慢することで、体調を崩してしまうこともあります。

つまり災害時のトイレは、単なる「不便」の問題ではありません。避難生活を安全に続けるために欠かせない生活インフラの一つとして考える必要があります。

「駆け付ける」と「備え置く」。北九州市が進める2つの対策

北九州市が進めているのは、一つの方法だけではありません。大きな特徴は、必要な場所へ移動できる**「トイレカー」と、市内の避難場所などに整備する「マンホールトイレ」**を組み合わせていることです。

いわば、「駆け付けるトイレ」と「備え置くトイレ」。

災害がどこで起こるのか、停電や断水がどの程度続くのかは事前には分かりません。さまざまな状況を想定し、携帯トイレや簡易トイレ、車いすでも利用できるトイレなども含めて、選択肢を増やしているのが北九州市の取り組みです。

ここに注目①|トイレカーには「完全に独立した2つの個室」

北九州市所有のトイレカーは、中央の壁によって車内が完全に仕切られ、2つの独立した個室になっています。

それぞれの個室には、

  • 水洗の洋式トイレ
  • 手洗い場

【手洗い場】

【洋式便器】

を1基ずつ設置。車両の左右それぞれにドアがあり、別々に出入りできる構造です。災害時に必要な場所へ移動できる「機動力」が、固定設備にはない大きな特徴です。また外装には、市民から応募された北九州の自然を写した写真を採用。災害時に使用する特殊な車両だからこそ、無機質な設備ではなく、被災した人に寄り添う存在となることを目指したデザインになっています。

6月のお披露目では、利用者から「使いやすかった」「きれいだった」といった声も寄せられています。

ここに注目②|北九州市内11カ所に「マンホールトイレ」

もう一つ知っておきたいのが、マンホールトイレです。北九州市では2015年度から広域避難地を対象に整備を始め、2026年9月現在、市内11カ所で整備が完了しています。

マンホールトイレは、下水道管に直接排泄物を流す仕組み。水洗トイレに近い環境で使用でき、臭気を抑えやすいという特徴があります。洋式便器が標準仕様で、入口に段差がないほか、トイレ空間を広く確保したタイプも用意されています。

車いす利用者や子ども連れなど、さまざまな人が避難生活を送ることを想定した設備です。

ここに注目③|普段は「マンホールのふた」。だから平時に知っておく

マンホールトイレには、少し意外な課題もあります。

非常用設備のため、普段そこに見えているのは基本的に**「マンホールのふた」**。災害が起きて初めて目にすると、「どうやって使うの?」「本当にここがトイレになるの?」と戸惑う可能性があります。そこで北九州市では、イベントなどで実際に使用してもらう機会を設け、マンホールトイレを身近に感じてもらう取り組みを進めています。整備場所への看板設置もその一つです。

災害設備は「ある」だけでなく、市民が存在を知り、必要になったときに使えることまでが大切。防災というと非常食や飲料水、避難場所を思い浮かべがちですが、「トイレはどうする?」も家族で一度話しておきたいテーマです。

北九州で暮らす私たちにとって、これは「遠くの災害」の話ではない

今回のニュースで印象的なのは、北九州市が備えていたトイレカーが、実際に熊本県八代市へ向かったことです。普段、市内で見かける防災設備は「いつ使われるのだろう」と実感しにくいもの。しかし災害が起きれば、その備えが市外の被災地を支えることもあります。そして逆に、北九州で災害が発生したときには、私たち自身がこうした設備を必要とする可能性があります。

「避難所はどこ?」に加えて、「断水したらトイレはどうする?」

そんな視点まで持っておくことが、日頃の防災をもう一段具体的にしてくれそうです。

こんな人に知ってほしい

今回の取り組みは、特に北九州市で暮らす人や、家族の防災について考えている人に知ってほしいニュースです。特に、小さな子どもがいる家庭、高齢者と暮らす家庭、車いすを利用する家族がいる家庭などにとって、避難先のトイレ環境は決して小さな問題ではありません。防災用品を見直すときには、水や食料だけでなく携帯トイレなどの備えも含めて、「排泄をどうするか」を家族で考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

北九州市の災害時トイレ対策

災害用トイレカー
導入:2026年3月
設備:独立した個室2室、水洗洋式トイレ各1基、手洗い場各1基
お披露目:2026年6月・曽根東小学校の行事
派遣実績:2026年8月、熊本地震の被災地・熊本県八代市へ派遣

マンホールトイレ
整備開始:2015年度
整備状況:2026年9月現在、市内11カ所で整備完了
特徴:下水道管へ直接流す方式、洋式便器、入口に段差のない仕様など

まとめ|「トイレを我慢しなくていい」ことも、防災です

水や食料は準備していても、意外と後回しになりやすい災害時のトイレ。

北九州で導入された一台のトイレカーが実際に熊本の被災地へ向かったことは、災害時の「当たり前の生活」を守る設備の重要性を身近に感じさせてくれます。

次に防災用品を確認するときは、家族で一度「もし今日、水洗トイレが使えなくなったら?」を話してみるのもよさそうです。