はじまりは“甘いものが苦手なお父さん”!?

 戸畑区新池に店舗を構える洋菓子のミロ。1965年に創業した人気の洋菓子店だ。人気の秘密は、店主の河野氏が考案する既存の洋菓子に捉われない商品にある。その一つ「焼酎ケーキ」は、文字通り焼酎味のケーキだ。隠し味なんかではない。焼酎風味程度でもない。焼酎なのだ。つまり、焼酎がそのまま活かされたケーキである。食べたら乗るな、乗るなら食べるな?これまでのケーキの常識が変わる衝撃的なケーキである。

 この焼酎ケーキ、甘いものが苦手なお父さんへのバースデーケーキやバレンタインデーのプレゼントとして話題になっている。甘いものが苦手という理由でケーキなしの殺風景な誕生日になっている家庭もあると聞くが、焼酎ケーキがあれば、お父さんの誕生日も華やぐ。

 

“ケーキ屋”と“酒造家”の酒の席から…

 焼酎ケーキ誕生のキッカケは、ケーキ屋の河野氏と酒造家の友人が酒の席で冗談半分に「コラボしよう!」から始まったそうだ。酒の席での話は、大抵気が大きくなっているので、やめておくことがお勧めだ。しかし、この2人はそれを本気にしてしまった。そして、熊本の芋焼酎をベースにしたケーキ作りが始まった。作り手の好奇心か意地か、とにかく酒の席での話をその場の話で終わらせなかったのが後のヒットを生んだ原因だった。

 

試行錯誤の末、辿り着いたチョコレート

 しかし、開発は思うように進まなかった。芋焼酎に合いそうなケーキをベースに試行錯誤を繰り返したが、ケーキと焼酎がケンカし思うような味の化学反応は起きなかった。芋焼酎ならではの独特の臭みが原因だった。あらゆるケーキというケーキを試した。もう試すものがなくなり、途方に暮れていた時に目に留まったのが「チョコレートケーキ」だった。

ウイスキーボンボン(中にウイスキーが入ったチョコレート菓子)の先入観があり、チョコレートに洋酒は合うが、芋焼酎には合わないと思っていた。芋焼酎独特の臭みとチョコレートがどうなるか、ダメ基でチャレンジしてみた。すると、芋焼酎の風味は残りつつ、チョコレートの甘味が程よく効いている。「これは、成功なのでは?」河野氏は、まだ半信半疑ではあったが、完成へ確実に一歩近づいたと感じていた。

 

焼酎好きでケーキ嫌いなお父さんに捧ぐ

 良さそうだから商品化。そう至るには、決め手がなかった。ケーキ職人として長いキャリアを誇る河野氏でさえも、まだ出会ったことのない味だったからだ。そこで、河野氏が確信を得るために行った調査が独特だった。

 ケーキ好きではなく、普段ケーキを食べない甘いものが苦手な近所の知り合いに試食を依頼したのだった。河野氏のなかで、既存のケーキではないという考えから、既存の常識に捉われない調査を行ったのだ。結果、普段ケーキを食べないというモニターの男性から「これはおいしい。これなら、ケーキを食べない自分でも食べられる。」とお墨付きをもらった。焼酎ケーキは、こうして世にリリースされた。

 

やさしくて嬉しい誤算

 焼酎ケーキは甘いものが苦手な焼酎好きな人向けに商品化された。男性をイメージしていたが、嬉しい誤算があった。実際に購入していくのは若い女性が多かったのだ。時期は2月中旬。話を聞くと、お父さんへのバレンタインデーのプレゼントということだった。

 

お父さんの疲れた体に甘〜い味方

お父さんへの家族の愛情が「焼酎ケーキ」のヒットに繋がった。

世の中まだまだ、捨てたものじゃないですよ。お父さん方。

2児のパパとしては、今後も焼酎ケーキのヒットを願う。